アートとデザイン、そしてビジネスが融合し始めた

アートとデザイン、そしてビジネスが融合し始めた

 ではどんな人が、そんな100万円もするイスを買うのでしょうか。現在、リミテッドエディションの家具は、比較的若い世代のアートコレクターが購入するケースが多いと言います。現代アートの価格は、ある程度の知名度を持つアーティストの作品となると、とても手が届かないレベルになっています。

 しばらく前までは、絵画や彫刻が無理なら、写真の作品を買うという選択肢がありました。しかし現在は、写真もアートとしての評価をしっかりと確立しています。そこで次にコレクターたちが目をつけたのが、デザインだったのです。イスが1脚100万円と聞くと高価なようですが、100万円のアート作品なら決して高くはないという感覚です。絵画や写真と同じように、将来的に相場が上がっていくかもしれないという楽しみもあります。

 例えば俳優のブラッド・ピットも、デザインアートの精力的なコレクターとして知られています。彼の場合、子どもがアート作品のコレクションに触ったら一大事ですが、デザインなら一緒に遊べるからいいというのも理由らしいのですが。

 (中略)

 こうした観点に立つと、作品を展示する美術館やギャラリーと、人材を養成する学校が充実している場の可能性が感じられます。そこには、デザインに関するたくさんのアイデアが集まっているのですから、企業の関心は高まるでしょう。そしてこうした環境を利用して、企業がビジネスの活性化を図っていく。国にとっては産業育成策にほかならないのです。

 形だったり色だったりというモノの内部にある要素がそれを「アート」であるか「デザイン」であるか「商品」であるかを決めるのではありません。それらを決めるのはモノを扱う僕たちの言説とそれに基づくコンセンサスです。写真だってもともとは「アート」ではなかったし、今でも大部分は「アート」ではないですよね。

 これからコレクターの需要がデザインに傾けば、デザインの展覧会が増えるかもしれません。展覧会が増えれば、展示されるモノへの言説も増えるでしょう。そのようにしてデザインでありアートでもあるモノが増えていくような気もします。僕としては、デザインでもなんでもとにかくいいものに対してちゃんと評価するような言説が出てきてくれればなと思います。