和田竜『のぼうの城』

のぼうの城

のぼうの城

 「わからぬ。なぜあの総大将が、ああも角の多い侍大将どもを指揮できるのか」
 田楽踊で、あの大男の将器を確信した吉継だったが、最前の大広間での、正木、柴崎、酒巻ら重臣どもの成田長親に対する物言いをきいて、とうてい統率できているとはおもえなくなっていた。
 「できないのさ」
 三成は、当然のようにいった。
 「それどころか何もできないんだ。それがあの成田長親という男の将器の秘密だ。それゆえ家臣はおろか領民までもが、何かと世話を焼きたくなる。そういう男なんだよあの男は」

 秀吉が圧倒的な兵力で関東を平定した時に、一つだけ落とせなかった城。その城の主となった不思議な男のお話。読みやすくて面白い。登場人物たちのキャラも、歴史的な正確さはさておきシンプルでわかりやすい。
 こういう並はずれた人徳をもっている人って、憧れます。自分の周りにも時々いるんですよね。なにができるわけでもないんだけど、人懐っこくてほっとけない感じのやつ。僕にはそんな天性のものはないと解ってはいるし、リーダーの立場にたてばもう少し別のリソースで頑張るしかないとは思うのですが。
 『宇宙飛行士の育て方』に書いてある野口さんみたいなバランス型で何でもこなせるリーダーもいるし、『のぼうの城』の成田長親みたいな何にもできないリーダーもいる(かもしれない)。共同体って面白いですね。