差別用語は追放すべきか ハックルベリー新版めぐり論争

差別用語は追放すべきか ハックルベリー新版めぐり論争

 1885年に発表された「ハックルベリー」は、米国で奴隷制度が残る南北戦争以前の南部が舞台。逃亡した奴隷ジムと、家を飛び出した白人のハック少年が、自由を求めてミシシッピ川をいかだで下っていく物語。現代まで100を超える版を重ね、米国を代表するベストセラー小説として知られる。

 原書には、出版された当時は日常的に使われていた「ニガー」という語が200回以上、登場する。現代は差別用語としてほぼ禁句になっており、読んだ黒人生徒が傷つく恐れがあるとして、授業の教材としては敬遠されることが少なくなかった。

 インディアン(アメリ先住民族)についても、より侮蔑的な表現「インジャン」が使われている。

 新版は、こうした差別用語を言い換えることによって、読者層を広めることが狙いだという。言葉遣いだけが理由で名作が読まれないのは残念だ、という趣旨だ。また、初めて黒人大統領が登場した現代には、ふさわしくないといった指摘もある。

 しかし、原文尊重派は、「著作権が切れているとはいえ、原作者の言葉遣いを尊重するべきだ」と論じる。「小説は、黒人差別を批判する立場から描かれている」として、日常的に差別用語が使われていた時代背景を理解しないといけない、との主張も少なくない。ニューヨーク・タイムズ紙は今回の出版について「無菌化」と批判した。

 「ニガー」を削除し、それが持つ歴史と、なぜそれが暴力的に働くのかを考える知的労働をせずにすまそうとするスタンスは、新しい差別用語を生み出す温床となるのではないでしょうか。