「害虫」

 まず、宮崎あおいの演技がすごくよかった。中高生の女の子が主人公でその子が何か尋常ならざるオーラを放っているような映画や小説に「中2マジック作品」という名前を勝手につけています。その年代の女の子ではないと絶対に出せない不安定さとかはかなさみたいなものが、たたずまいとか、声の抑揚とか、笑顔とか、そういったものから出てる作品。たとえば「リリィ・シュシュのすべて」の蒼井優伊藤歩とか、この「害虫」の宮崎あおいとかのことです。それだけでなんていうことのない場面からも目が離せなくなるのです。

 そんな宮崎あおいが演じる中学生サチ子を中心として、母親や、学校の友達や、彼氏や、その他のいろんな人々と日々を過ごすのだけれど、サチ子の想いが常に向いているのは遠く離れ画面にはほとんど出てこず、手紙でのやりとりでしかほとんどその存在を知ことのできないある人で、サチ子が現実離れしていって、ホームレスと遊んだり、車に轢かれようとしたり、何人かの男の欲望の対象にされたりすればするほど、台詞の少ない場面の連続の中で彼の不在とサチ子の彼に対する想いが際立っていきます。だからこの作品はサチ子と不在の彼との恋愛を描いた映画なのだと思います。

 物語の中のタイトル「害虫」とは何を指しているのかがはっきり示されていないのも面白いところです。「害虫」とは誰なのだろう。なぜか周りの人々に不幸を呼び寄せてしまうサチ子なのか、或いはサチ子が想い続け、少しづつ不幸になっていくのを知りながら、それでも手紙を送り続ける「不在の彼」なのか、それともそんな二人の関係から不可避に漂って、作品全体をじわじわ蝕んでいるような「どうにもならなさ」なのか……。

 ただ見ているだけでもどこか惹きつけられ、それでいていろいろと考えさせられるいい映画でした。