金原ひとみ『蛇にピアス』

蛇にピアス

蛇にピアス

 ……私はこれを求めていたのだろうか。この、無様にぽっかりと空いた穴を、求めていたのだろうか。舌の穴を鏡に映してみると、肉の断片が唾液に濡れ、テラテラと光っていた。

 翌朝、明るい陽の中で目を開けた。ひどく喉が渇いていて、仕方なく起きあがると台所に向かった。冷蔵庫の中の冷え切った水をペットボトルのまま飲むと、舌の穴を水が抜けていく。まるで自分の中に川が出来たように、涼やかな水が私という体の下流へと流れ落ちていった。

 毒のある小説でした。「何も持たず何も気にせず何も咎めずに生きてきた。きっと、私の未来にも、刺青にも、スプリットタンにも、意味なんてない。」と言い切る主人公が、それでも最後に「大丈夫」だと思ったその生きる力とは何だったのか。言葉ではなかなか理解できないものかもしれません。舌の中にできた「川」のように、その本人にしかわからない身体的なものなのかもしれません。