はやぶさ救った「1個のダイオード」

はやぶさ救った「1個のダイオード」

 『イオンエンジンのクロス運転に成功したのは、それを想定したわけではないのに、中和器Aが他の3基のエンジンからのイオンビームを想定していたかのように配置されていたからです』

 このような幸運が、ばらばらだった各イオンエンジンのイオン源と中和器を組み合わせるという離れ業を可能にしたわけだ。そして、実はそれを具体化できたのはプログラムの最後に追加されたムダとでもいうべき1つの回路の存在だったのだ。

 それは、NECの技術者である堀内康男氏が「ひょっとしたら役に立つかもしれない」と思い、開発の最後の最後に加えた単純な回路である。電線で各イオン源と中和器をつなぎ、間違って電流を逆流させないようにした部品「バイパスダイオード」だった。

 役に立つかもしれないが、使う可能性もほとんどないだろうということで、プロジェクトマネジャーの川口教授に報告されることもなく、動作確認の地上試験を1回も行っていなかった。その回路が、結果として「はやぶさ」を救うことになったのだ。

 こういうことがあるから世の中面白いんだよね。