ベネチア映画祭 映画への愛こそすべて タランティーノ審査員長

ベネチア映画祭 映画への愛こそすべて タランティーノ審査員長

 地元イタリアの4本をはじめ、フランスやドイツの作品群は完全に無視された。毎年のように賞を得てきたイタリアが無冠に終わった理由を聞かれたタランティーノは「そんな暗黙のルールは、今年に関しては受け付けられない。でもコッポラはイタリア系だろ」と切り返していた。フランソワ・オゾン監督の「しあわせの雨傘」などは評判も良かったが、いつもよりウェルメードだったためか、賞に届かなかった。

 イグレシア監督が「今年は何か新しい動きを感じる」と会見で述べたように、タランティーノは、明らかに映画祭を変えようとしていた。それは、彼に審査員長を任せた映画祭ディレクターのマルコ・ミュラーの考えでもあろう。政治性や、地域のバランスといった大人の配慮から映画を救い出し、純粋に映画の魅力を競わせたい。そんな空気をひしひしと感じた。

 ただし、彼らの思いに最もふさわしいはずの、純粋に面白い映画が一本忘れられた。三池崇史監督のアクション時代劇「十三人の刺客」である。娯楽性と芸術性、大衆性と先鋭性を兼ね備えたこの作品が今年の清新な受賞リストに載っていないことを、日本人としてではなく、一映画ファンとして悔しく思う。