メディアの地殻変動とネットが揺るがす“消費社会の夢”

メディアの地殻変動とネットが揺るがす“消費社会の夢”

  近年において多くの若者(あるいは男性)が、急速に消費意欲を失った要因はいくつも指摘できる。若者を中心に所得が大きく減少していることや、将来不安が高まっていることの影響は少なくない。ただそれだけでなく、プライマリーメディアがテレビからネットに変わったことによる世界観や価値観の変化を見過ごすべきではない。

 おそらくネットをプライマリーメディアとする「ネット人間」たちは、テレビが提示する“豊かな消費生活”の夢から覚めてしまったのであろう。夢から覚めた彼らはもはや、テレビから流れてくる幸福のメッセージに無邪気に反応することができなくなっているのだ。

(中略)

 今までテレビと企業のマーケティングは、相思相愛の関係を形づくってきた。テレビは“豊かな消費生活”の夢を紡ぎ、企業はそれと歩調を合わせ、製品やサービスの拡販を図ってきたのである。「消費=幸福」という記号性を持つ“豊かな消費生活”の夢が強固な共同幻想となった背景には、テレビがユニバーサルメディアとして万人共通のイメージを提供してきたことが大きく貢献していると考えられる。

 現在、消費者のテレビ離れは着実に進みつつある。そしてテレビは、ユニバーサルメディアとしての影響力を徐々に弱めていくと考えられる。だが「ネット人間」が大幅に増加し、ネットが支配的なメディアになったとしても、ネットがテレビと同じ役割を担うことはないであろう。

 なぜならテレビとネットでは、メディアとしての性格が大きく異なるからだ。テレビが文字通りマスメディアであるのに対して、ネットはパーソナルメディアとしての性格が強い。だからネットが万人に共通のイメージを提供し、消費の夢を紡ぐことは難しい。

 ネットというパーソナルメディアが伸張し、マスメディアが退潮するトレンドは、今後も継続するであろう。そして多くの消費者が“豊かな消費生活”の夢から覚め、そのことにより個人消費がさらに冷え込んでいくことも十分に想定される。そのような未来は、企業にとっては“悪夢”以外の何物でもない。

 マスメディアからインターネットというメディアの地殻変動を、単なるメディアの世代交代ととらえるのは適切ではない。それは単にマスメディアからネットに広告宣伝を振り換えればすむような変化ではないのだ。

 パーソナルメディアであるネットの世界では、従来のマスマーケティングの有効性は大きく低下するはずだ。そして企業は今後、消費者との間にパーソナルな関係性を築く必要に迫られるであろう。メディアの地殻変動により、企業はマーケティングの在り方を根本から変革しなければならないのである。

 みんながうすうす感づいていそうなことをデータとともに再確認するような記事。ガンバロー。