岡田利規『わたしたちに許された特別な時間の終わり』

わたしたちに許された特別な時間の終わり (新潮文庫)

わたしたちに許された特別な時間の終わり (新潮文庫)

 「三月の5日間」。クラブで会った男女が5日間ラブホでやりまくる話。つまりこの物語には物語と呼べるようなプロットだとか流れだとかそういったものはほとんどなく、あるのは9.11後イラクで戦争が行われているという漠然とした終末的な雰囲気が渋谷のある男女とどう関係しているか、ということで、それを文体で小説というかたちで伝えるのはとても難しいことなのだろうな、と思います。

 作品の途中でこんなシーンが出てきます。
 ブッシュは悪か?とクラブでパフォーマーの一人が問いかけ、それに対してクラブにいる人々が口ぐちにイエスエスと答える。そんな中で、一人だけノーと答える男がいる。意見を聞きたい、といわれ男は言う。別にポリシーとしてブッシュが好きとかそういうことではなく、みんなが場の雰囲気全体でイエスエスというのはあまり好きではないし、危険なのではないかと思った。それだけだ。

 この小説の語りの視点は、イエスエスという人々のそれでもないし、イデオロジカルな雰囲気に抵抗しようとしてノーと言った男のそれでもない。その彼らをただ漫然と眺め、そのあとナンパした女の子と5日間やりまくるような男の、そのあとは女の、最後には三人称の、視点なんですよね。

 そして、作品最後の、嘔吐。なかなか一筋縄でいかない小説で好きです。