架空世界に現実味を加えて 米澤穂信さん「折れた竜骨」

架空世界に現実味を加えて 米澤穂信さん「折れた竜骨」

 映画化された話題作『インシテミル』で知られる作家、米澤穂信さん(32)が『折れた竜骨』(東京創元社)を刊行した。魔法が実在する「もう一つの12世紀の西欧」を舞台に、ミステリーの可能性を広げる小説になった。謎解きだけでなく、時代小説のように実際の12世紀の風習を反映し、物語の強度も高い。

 米澤さんは2001年デビュー。「古典部」に所属する高校生が活躍するシリーズなど、身近な事件や日常の謎をミステリーに仕立ててきた。一方、殺人ゲームを描く『インシテミル』など、青春ミステリーの爽やかさとは異なる作風も持つ。

 06年には不在のはずの人物がいる世界を描く『ボトルネック』を書いた。今作は、トリックに日常にありえない手法が入る「特殊設定」のミステリー。1190年、北海に浮かぶ架空の「ソロン諸島」に、ある騎士とその弟子が訪れる。島で起きる「領主殺し」。犯人は、誰か――。魔法を使う騎士、不死の「デーン人」などが登場する。

 原案は、自身のサイト「汎夢殿(はんむでん)」で掲載した原稿用紙250枚の作品。デビューが決まり、結末の公開はわずか2日だけという純粋なファンタジー・ミステリーだった。

 特殊設定は愛着がある。学生時代、山口雅也さんの死者が生き返る設定の小説『生ける屍(しかばね)の死』などにひかれたからだ。「特殊なルールが了解されていれば、ミステリーという知的遊戯は成立する。まだこんな広大な緑野があるのか」と思った。

 リメークにあたり、謎解きのプロットは変えていない。だが「物語」には手を入れた。「特殊設定」に現実性が織り込まれ不思議な世界観が生まれた。

 「特殊なルールを共有する」というのがミソミソのような気がするです。村上隆が「ノルウェイの森」のレヴューで言っていた通り日本はハイコンテクストな文化を持っているとすれば、この「特殊なルール」作りは日本のお家芸のはず!