〈文化変調〉第5部・ゆらぐ権威(3)巨匠去り、失った頂点

〈文化変調〉第5部・ゆらぐ権威(3)巨匠去り、失った頂点

 画壇は平山さんら「巨匠」によって象徴されてきた。近年の日本画でいえば、杉山寧、東山魁夷高山辰雄加山又造平山郁夫の5人が作品的評価も知名度も高く、姓に「山」の字が入ることもあって「五山」と呼ばれた。しかし全員が鬼籍に入った今、巨匠と呼べるような存在はすぐには見当たらない。

 東京美術商協同組合副理事長の横井彬さん(65)は「戦後の精神的な飢えが才能を欲し、巨匠を求めた。だが、今は不満はあっても飢えはない」と話す。

 美術だけの話ではない。例えば映画の巨匠。黒沢明小津安二郎溝口健二成瀬巳喜男木下恵介といった名が浮かぶが、いずれも故人だ。

 キネマ旬報映画総合研究所のエグゼクティブ・ディレクター、掛尾良夫さん(60)は「芸術性と大衆の支持を備えるのが巨匠」と話す。市川崑も世を去り、現役ではアニメの宮崎駿監督ぐらいか。「観客の娯楽志向もビジネスの側面もますます強まっている。芸術性を備えた巨匠は誕生しにくい」

 どの分野でも起こっているのは「ハイカルチャー」と「ロウカルチャー」との境界の消滅。