村上春樹『1973年のピンボール』

1973年のピンボール (講談社文庫)

1973年のピンボール (講談社文庫)

 ひとつの季節がドアを開けて去り、もう一つの季節がもうひとつのドアからやってくる。人は慌ててドアを開け、おい、ちょっと待ってくれ、一つだけ言い忘れたことがあるんだ、と叫ぶ。でもそこにはもう誰もいない。ドアを閉める。部屋の中には既にもうひとつの季節が椅子に腰を下ろし、マッチを擦って煙草に火を点けている。もし言い忘れたことがあるのなら、と彼は言う、俺が聞いといてやろう、上手くいけば伝えられるかもしれない。いやいいんだ、と人は言う、たいしたことじゃないんだ。風の音だけがあたりを被う。たいしたことじゃない。ひとつの季節が死んだだけだ。

 気分が沈むことがあると村上春樹を読みます。
 別に何か特別なメッセージを読みとろうとしてではなく、ただ読むことで物語の世界に入るのが心地いいからというだけ。
 今日は難しいことはいいたくないや。ただ読むことの楽しさ。