内田樹『ためらいの倫理学』

ためらいの倫理学―戦争・性・物語 (角川文庫)

ためらいの倫理学―戦争・性・物語 (角川文庫)

 コミュニケーションの不可能な相手と、身をよじるようにしてなおコミュニケーションを試みる「私」のシステムのきしみから、「愛」は起動するのではあるまいか? 他者との出会いの意味は、「私の理解を絶し、私の共感を拒む者」を「外部」に構想するという観想的な営みには尽くされず、そのような「外部」に向けて、いかなる保証者も準拠枠もないままに、なお身を投じる「私」の冒険的実践のうちにこそ求められるべきなのではあるまいか? 他者との出会いとは、コミュニケートすることの不可能性の覚知が、かえっていっそうコミュニケーションへの欲望を駆動するという逆説的な出来事を指すのではあるまいか?

 自分のなかで重要な場面でいつも読んでいる本。引用した「越境・他者・言語」はこれからもずっと心に留めておきたい本当に自分にとって価値のある文章です。
 「自分は自分、他人は他人」という「アイデンティティ(自己同一性)」の確立だけでは得られないもの、自分の作った他者との壁を、他者との関係のなかで常に崩して、新しく作っていくような、そんな気構えからしか始まらないものが多分あるんだ。そしてそれこそが僕が作り上げたいものなのかもしれません。