川上弘美『神様』

神様 (中公文庫)

神様 (中公文庫)

 おもしろい。でも、こういう小説って、特に大事件が起こるわけではないので、読む人によっては「え?終わり?何が言いたかったの?」ってなっちゃうこともあるんだろうな。
 そういうタイプの小説は「世界の解像度」で勝負してるんだろうと、僕は思ってます。日常の風景の中での「白」と「黒」の間のグラデーションをどこまできめ細かく描けるか。人間の感性のミクロの世界に言葉で入っていく感じが好きです。日本の女性作家はそういうタイプが多いような気がしていて、必然角田光代とか山崎ナオコーラとか江國香織とか綿谷りさとか津村記久子とかも好きです。そこまで多くは読んでませんが。

 この本には「人にあらざるもの」がたくさん出てくる。しかもファンタジー的な前提から出てくるのではなくて、日常の生活の中に突然当たり前のように出てくる。たぶん彼らはファンタジー的な要素ではなくて、作家が日常世界で感じている他をもっては表しがたい何かが彼らのかたちをとっているんだろうと思う。別にそれは突拍子のないことではない。物語なんてそんなもんで、どんな物語も、いろいろな言葉で世界を自分が感じるままに分節してるだけで、どの物語が真の世界の認識の仕方だとか、そういうものはないもんだと思うからだ。

 物の怪と魑魅魍魎が跋扈する平安時代の「物語」と、最先端の科学的知識に基づいた現代の「物語」の、どちらが正確に世界を捉えているかを話し合うことに意味はなく、どちらも同じくらい不正確で、同じくらい幻想的なのだ。

 ということで、現代女性の「神話物語」にかんぱーい。いい小説です。